都立・公社病院の独立行政法人化に反対~スライドで分かりやすく解説♪~

2020年06月29日

 宇都宮けんじさんは、3つの緊急政策の一つとして都立・公社病院の独立行政法人化中止を掲げており、この点については様々な解説がなされていますが、6月20日に開催された東京法律事務所主催のKENPOウェブセミナー「都知事選挙で何が変わる?~新型コロナ対策から見る憲法と都政~」で、長谷川悠美弁護士がスライド(パワーポイント)で解説しました。今般、長谷川悠美弁護士の許諾を得て、解説を紹介します。

 現在、私たちの暮らしに大きな影響を与えている「新型コロナウイルス肺炎」。2020年1月27日に「指定感染症」に指定されました。

 これによって、新型コロナウイルス肺炎に罹患している患者を受け入れられるのは、感染症指定医療機関のみとなりました。

 東京都の感染症指定医療機関の病院・病床の約7割は、都立病院と公社病院が担っています。

 この都立・公社病院が、現在、地方独立行政法人化されようとしています。

 昨年の12月3日、小池都知事は、議会において、都立病院と公社病院の14病院を「東京医療機構(仮称)」の地方独立行政法人にすることを表明しました。

 都立・公社病院が地方独立行政法人になると、何がどう変わるのでしょうか。

 まず、都立・公社病院の担っている役割についてお話しします。

 都立・公社病院は、民間病院でも行っている通常の治療に加えて、「行政的医療」を提供しています。この「行政的医療」とは、今回の新型コロナウイルス肺炎のような感染症医療をはじめとして、災害医療、救急医療、周産期医療など社会的に必要な医療です。

 このような医療行為は、社会的には必要だけれども、病院経営の観点からすると採算の取れる医療ではありません。そのため、民間病院が担うことには限界があるため、税金で支えて公共の医療を守ろうという発想で、都立病院・公社病院が設けられ、法令等によって行政医療を担っています。

 新型コロナウイルス肺炎の治療も、病院経営の観点からすると赤字の部門です。感染者をいつでも受け入れられるように病床を空けておかなければなりませんし、感染対策のために病床数を減らさなければならないので、満床にすることができないからです。

 それでも感染者を受け入れるのは、都立・公社病院が「行政的医療」を担っているからであり、それが都立・公社病院の使命でもあるのです。

 このような都立・公社病院が、なぜ「地方独立行政法人化」されようとしているのでしょうか。

 それは、都立・公社病院が「赤字経営」であるとして、経営の自助努力を求めるためです。東京都は、都立・公社病院に対して、一般会計から「繰入金」を支出しており、これを問題としているのです。

 しかし、「繰入金」は、行政的医療のための費用であり、これがなければ採算の取れない行政的医療を都民に提供することはできません。

 大阪府でも、同様に府立病院を2006年に独法化していますが、運営負担金をこれまでに半減させています。

 都立・公社病院の独法化の狙いが「赤字経営」の解消であることからすれば、東京都の繰入金や運営負担金も年々削減されていくことが予測され、行政的医療を維持・拡充していくことは困難になります。

 また、地方独立行政法人となると、自助自立の財政が求められます。地方独立行政法人となっても補助金が出ますが、3年ごとの中期経営計画とその達成度合いに対する評価をもとに、病院の経常収支および医業収支が改善されなければ、補助金は減らされる可能性があります。

 それをおそれれば、病院自身の取り組みとして不採算部門の切り捨て、収益構造の改善のための取り組みをすることとなります。4人部屋を減らして、差額ベッド料の発生する個室を増やすといった取り組みです。

 実際、「東京都健康長寿医療センター」は、独法化された後、病室の25%である141室が有料個室とされました。

 このような取り組みを行えば、必然的に病床数は減っていきますので、新型コロナウイルス肺炎患者を受け入れられる病床数が減っていくことになります。

 日本では年々公的医療の病床数は減っており、平成19年に230,823床だったのが、平成29年には209,293床になっています。10年間で2万床以上が減らされています。

 さらに、独法化により、都立・公社病院で働いている医療従事者の方々は、公務員から民間労働者になります。現在の判例では、公務員から民間労働者になるときには、労働条件を引き下げられることになっています。

 都立・公社病院が「行政的医療」といういわば不採算部門を扱っている以上、地方独立行政法人となり経営について自助努力しなければならなくなると、経費を削減せざるを得ません。一番大きい経費というのは、人件費です。

 都立・公社病院の医療従事者が、「行政的医療」という大変な役割を、低賃金で担わざるを得なくなります。耐え切れなくなって退職してしまう方が多く出ることが予想されます。そうすると、都民に現在の質の医療を提供できなくなります。

 イタリアでは新型コロナウイルスの感染拡大によって、医療崩壊に直面しています。仏紙レゼコーによれば、イタリアでは過去5年間に約760の医療機関が閉鎖され、医師5万6千人、看護師5万人が不足しているといいます。EUが求めた財政緊縮策として、政府が公立病院の統廃合や医師の給与カットなどの医療費削減策を進めた結果、多くの人材が国外に流出し、緊急事態に対応できなくなったと指摘されています。同様のことが日本でも起こりかねません。

 都立・公社病院の独法化には、都民から1,511件の意見が寄せられ、多くが独法化に反対するものでした。3月には、独法化準備をやめ直営の堅持を求める署名3万8,000人分以上が都議会に提出されました。

 しかし、3月末に、都は2022年度内をめどに独法を設立する方針を決定しました。

 この新型コロナウイルス肺炎の状況下でも、都の方針は変わっていません。みんなで声を上げていきましょう。